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日本のコンテンツ産業とフリーランスクリエイターの課題:産業論的視点から

コンサルタントの高田です。ここ数年、フリーランスのクリエイターを取り巻く環境について調査する案件が多くありました。その流れで、各分野のクリエイターと接する機会が多くあり、2024年4月に設立された一般社団法人フリーランスリーグにもプロボノとして参加し、クリエイターの環境改善のために、より専門的な調査のお手伝いをしています。

さて、日本のコンテンツ産業は、アニメや漫画、映画、音楽といった多彩な分野で世界的な注目を集めています。2023年には、日本のアニメ産業が過去最高となる3.3兆円(約22億ドル)の売上を記録し、そのうち51.5%が海外市場からの収益でした。また、漫画市場も6,937億円に達し、電子書籍市場の拡大が牽引しています。(関連記事)

日本のコンテンツが国際的に高い評価を受けているものの、その裏で産業を支えるフリーランスクリエイターたちは厳しい労働環境に直面しており、待遇改善が進んでいない現状があります。映画製作など、日本のコンテンツ産業が生まれて約100年が経ちますが、発注者とクリエイターの関係は対等にはならず、契約書が日常的に交わされる文化は育ちませんでした。結果的にクリエイター側への報酬未払い、支払い遅延、不当な条件変更といった問題が頻発してきました。

特にアニメ業界では、低賃金と長時間労働が常態化しており、日本のアニメーターの平均年収は462万円前後とされています(令和5年度厚生労働省統計調査)。一方で、アメリカのアニメーターは平均970万円以上(下記記事中の平均年収6万5000ドルを2025年2月25日レートで計算した金額)を稼いでおり、その差は約2倍です。(関連記事

この差を埋める要因として挙げられるのが、知的財産権による収入です。アメリカや韓国では、作品のロイヤリティ配分や著作権譲渡に際してクリエイターへの追加報酬が一般的ですが、日本ではこれらの権利が軽視される傾向があります。(関連データ

さらに2024年11月には、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス新法)が施行されました。この法律は、契約内容の明示や報酬支払い期限(60日以内)の義務化、不当な契約条件変更の禁止などを規定し、フリーランス保護を目的としています。(関連記事

ただし、この法律による取り締まりは下請法違反という文脈であり、発注者とクリエイター双方にとってWin-Winになるような産業全体を俯かんしたアプローチには至っていないのが残念なところです。

近隣の韓国では過去10年間でコンテンツ産業全体が急成長し、市場規模は2012年の約8.8兆円から2022年には約15兆円へと約2倍になりました。年平均成長率(CAGR)は約5.5%です。一方、日本は同期間で14.1兆円から14.7兆円へとわずか0.4%の成長にとどまっています。(関連記事) さらに、韓国ではクリエイター一人当たり売上も倍増しており、この背景にはクリエイターの環境整備とグローバル展開の成功があります。

韓国政府は「芸術福祉法」に基づき、国として一元的な管理体制を整備し、クリエイターへの支援と、産業全体の生産性向上のエコシステムを構築してきています。プロのクリエイター(芸術家)は国により認定される仕組みがあり、また、90種類近くの職種で標準契約書が整備されています。例えば、映画脚本家が著作権を譲渡する場合、興行収入に基づくロイヤリティを受け取れる仕組みが標準契約書に盛り込まれています。クリエイター側だけではなく、発注者側も標準契約書を採用することで助成金が得られやすくなるなど、両者にとってメリットのある仕組みです。

日本では、クリエイターの環境改善について、公正取引委員会、厚生労働省、内閣府、経済産業省、文化庁など、複数の省庁にまたがっているのが現状です。各省庁の尽力により、フリーランス法も含めて状況は進展しているものの、どうしても縦割りであるが故のタイムラグも生じます。企業側もクリエイター側も、どこが窓口か迷うという話もよく耳にします。一方でコンテンツ産業自体は苛烈な国際競争が進む領域でもあり、迅速に発注側とクリエイターの両者を巻き込んだ産業論的なアプローチを強化するためにも、一括してクリエイター支援を担当する枠組みが望まれるところです。

フリーランスリーグが実施した調査

第一回調査【緊急調査:漫画家・イラストレーターの著作権はメディアにどう扱われているのか?】(2024年6月4日)
第二回調査【著作権の扱いや、キャンセルフィーはどうあるべき?フリーランス新法に向けてクリエイターが希望する契約条件についての意識調査】(2024年11月14日)

高田正行のプロフィール

AOLジャパン、スクウェア、USENなどでインターネット黎明期からサービス立ち上げに関わる。ヤフーではサービス統括部長として、全社プロモーション、トップページ編成等を担当。東日本大震災の際は、震災対応責任者となり、電力使用状況メーターや、防災速報といったサービスを開発。ヤフーグループの不動産、自動車領域の子会社の役員、取締役を経て、2016年より3年間、復興庁に出向し、東北各地の地域活性化、コミュニティやなりわいの再生プロジェクトを推進。
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