人脈という要素は情報収集力が重要となるKSIの仕事において欠かせないものです。同時に、人脈づくりは仕事としての大きな魅力にもつながってきます。そのため、私も日々さまざまな業界の方とお会いできるよう努めています。最近も各国に駐在している大使が帰国されたとき、お会いする機会をいただきました。その際、「今年は中国の動きがさらに活発になる」というお話を伺いましたので、今回は中国の現状について述べてみたいと思います。
2025年3月10日、11日と東京において、2024年度アジア大洋州大使会議が開催されました。この会議は外務本省と在外公館が一体となって外交政策を推進する観点から、日本のアジア太平洋地域外交について幅広く議論する場でもあります。そして、この会議には外務大臣をはじめとする外務副大臣および外務大臣政務官の政務三役、アジア大洋州地域および北米地域に駐在する大使、外務省関係部局の幹部等が出席しています。近隣諸国との関係構築は重要であり、特に今年は中国から見れば抗日戦争勝利80周年となる年ですから。日本として中国との関係、さらには中国への対応をしっかりと考えなければならない時期に来ている中での会議という位置づけになります。
中国経済の現状:ミクロとマクロの視点
現在の中国では4期目を視野に入れた習近平一強の内政が続いています。その中で、中国の経済はミクロで見ると決して悪くはないように思えます。製造業のBYDは世界最大の電気自動車メーカーに成長し、一時苦戦していたHUAWEIも今では電気自動車業界への進出を拡大して、勢いを取り戻しつつあります。そして、こうした企業が東南アジア等への進出を図っている状況に照らすと中国経済は活性化しているようにもみえます。
しかし、視点を変えて、マクロで見るとどうでしょうか。2024年の経済成長率は物価変動を調整した実質で前年比5.0%(注1)と増えましたが、生活実感に近い名目GDPの増加率は4.2%にとどまり、9年ぶりに名目が実質を下回りました。また、2022年4月に上海ロックダウンが行われて以降、消費者信頼感指数は低迷(注2)が続いており、消費が非常に弱い状況に陥っているといえます。今回の全国人民代表大会(全人代)では消費刺激策が打ち出されていますが、消費行動を積極化させる政策など、直接消費者に働きかける対策があまりみられない現状でマクロでは中国経済が活性化していると考えることは難しいと思います。
一方で、米国との関係ではトランプ政権が発足して以降、関税の掛け合いが続いています。一見すると中国が苦慮しているようにも思えるのですが、実のところ、中国はトランプ政権の誕生にあたって念入りに準備を行っていたと考えています。中国にとっては決して不測の事態というわけではないのです。だからこそ、直ちに報復関税を課してはいますが、その報復関税も報復合戦をエスカレーションさせてしまうようなものではなく一定程度抑制されたものでもあるように見えます。2025年3月6日BBCニュース(注3)によると、中国は、アメリカと「どんなタイプの戦争」も戦う用意があると表明したという報道がなされていますが、これは米国への対応についての中国側の自信の表れだと考えています。
欧州および日中関係の動向
他方、欧州に対しては中国側に引き寄せようとする姿勢が見えます。欧州側もEUからは中国に対して厳しいメッセージを発してはいるものの、個々の国は中国に対して寛容(注4)です。ある意味では均衡が取れているとも言えます。今年はEUと中国の外交関係樹立50周年でもあるため、これから関係をどう保っていくのか、決断と選択を迫られることになるでしょう。
そして、肝心の日中関係です。日本は中国に対して意思疎通を図りたいと伝えてはいるものの、残念ながら山積みの課題については進展が見られません。それどころか、中国は石破総理の訪米について大変強い反発を示しています。しかし、これは見方を変えると、日本は総理交代、米国は大統領交代の中で安全保障について非常に強いメッセージを発信したとも捉えることができ、中国に対して良い意味での牽制(注5)になったとも評価できるのではないでしょうか。
冒頭で触れたように、今年は中国にとって抗日戦争勝利80周年の年です。10年前の70周年時、韓国の朴槿恵大統領が式典に参加されたことに対して、日本では衝撃を受けた方も多かったのではないでしょうか。このように予測される中国の対応に対して、日本がどのようなスタンスで臨んでいくのかも重要です。
以上、簡単ではありますが、中国の現状をまとめました。日本は今後、中国に対しどのような形で向き合っていくのか、皆で知恵を絞って真剣に考え、行動を起していかなければならない局面を迎えておることは確かだと思っています。
(ここで述べる内容は、筆者の個人的な見解であり所属組織の立場や意見とは異なる場合があります。)
参考サイト:
(注1)ジェトロ(日本貿易振興機構)「中国、2024年の経済成長率は5.0%、政府目標を達成」
(注2)ジェトロ(日本貿易振興機構)「中国の消費者心理はいつ回復するか」
(注3)BBCニュース「中国、アメリカとの『どんなタイプの戦争』も用意できていると」
(注4)独立行政法人経済産業研究所「変容するEUの対中戦略―経済安全保障分野を中心に―」
(注5)読売新聞「石破首相、中国の覇権主義認めない考えでトランプ氏と一致」
東洋英和女学院大学卒業。日本私立大学協会の会長を務める学校法人の理事長秘書として、文部科学省をはじめとした行政機関と連携し、私学経営の支援に従事。産官学連携のプロジェクトを立ち上げ、行政や大使館などと協働してSDGs推進を目的とした講演会やプログラムを企画・運営。衆議院議員の秘書として政界に携わり、さまざまな業界や団体のロビイング活動をサポート。国政選挙を組織の内部と外部の両面から支援している。
選挙活動を通じて、地域社会の声を政策に反映させることの重要性を実感し、多くの人々と共に未来のまちづくりに取り組む決意を固め、2025年東京都議会議員選挙に立候補。
社会教育の推進にも注力し、主権者教育の活性化を目指した国会見学プログラムを開催している。さまざまな経験から情報とコミュニケーションの重要性を深く理解し、2019年に社会情報大学院大学(現・社会構想大学院大学)にて広報・情報学修士(MICS)を取得。地域社会の課題解決に寄与する社会教育士として活動を続けるほか、キャリアカウンセラーやEAPメンタルヘルスカウンセラーの資格も有し、多角的な支援を幅広い世代に提供。2024年5月より現職。
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