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別所直哉代表に聞くパブリックアフェアーズ 【第2回】

ロビイングは「国民全体の利益」が成功の鍵
~団体通じた活動でも目的意識と行動力が重要~

パブリックアフェアーズについて弊社代表の別所直哉に聞くインタビューの第2回です。
第1回の記事は、こちらからご覧ください

― 前回、どのような企業、団体、人々であっても政策やルールに関心を持って意見を言っていくことが、より良い社会をつくることにつながるということを伺いました。企業を例にとって、ロビイングはどのようなものなのかを詳しく伺えますか。

(別所)経済活動の中でも、企業が行うものは規模が大きく、影響は多方面に及び得ると言えます。 そして企業の様々な活動は、現行の規律を守っての活動となるわけですから、制度と向き合わねばならないことが多々あります。場合によっては、より人々の役に立つ製品やサービスを提供していくために、今の制度を変えてもらわなければならないという事実に直面することもあります。例えば、民泊のための住宅宿泊事業法が成立したり、いわゆる日本型ライドシェアが認められるようになったりしたことは、制度の変更を必要としている事業者や人々の声が反映されたからです。

ところで、企業の声でルールが変わるという話を聞くと、「自分たちが利潤を増やすため有利なルールを作りたい」と考える企業が声を上げて、一部の企業のための制度を作ってしまうというようなことを心配される方もいらっしゃるのではないかと思います。しかし、国が作るルールは、あくまで国民全体の利益に合致するということが大切な原則です。自身の企業だけに有利な制度を作ろうとするのは、ルールのあり方からすると、正しいとは言えません。そして、そういったことが起きないようなプロセスがあります。

国民の代表たる国会議員が法案を作り、国会で審議したりして立法するという過程は、国全体の利益を実現することを保証するためのものでもあります。現在の日本では、法案の多くが行政府である内閣の提出ですが、憲法は閣僚の大部分を国会議員が務めるよう規定しており、やはり国民の意思を体現することを非常に重視しています。法律より下位に置かれる政令などの各種制度も、民意を反映して構成される内閣が作ります。

よって、特定の人や企業のためだけになるルールを制定しようとしても、国会審議などの議論の過程でチェック機能が働き、基本的には弾かれ、淘汰されることになります。そうすると、企業も、やはり全体の利益になることを提案する必要があるわけです。これが大前提だと言えます。もし万が一、仮に、一部の企業や産業だけの利益になるルールができたとしても、他方でそれによって悪い影響を受ける人々が出てくることになり、被害や不都合が生じて制度を見直さねばならなくなって、結局は遠回りすることになります。

法改正の例になりますが、2006年に行われた出資法改正によるグレーゾーン金利の解消は、消費者金融業界の働きかけがあったと言われています。当初は、撤廃時期が未定とされていました。しかし、過剰貸付や多重債務という社会問題に押された結果、最終的には3年後目処の撤廃が決まったという経過を辿っており、改正方針が短期間で大幅修正されたというようなケースがあります。被害や不都合が生じて制度を見直さねばならなくなり、結局は遠回りすることになります。全体の利益を考えることが、より良いルール作りのための鍵なのです。

― 企業がロビイング活動をする際に、団体を通じて行おうとするケースもあるようです。

(別所)一部の企業だけの利益ではなく、全体の利益を考えるという立場を体現する方法の一つとして、目的を同じくする企業が集まって、団体を構成して活動するということも行われています。一つの企業で活動をしていると、公益を考えての活動とは言っても、外形的には企業のための活動だと思われてしまうという欠点があります。団体での活動は、そう言った部分をカバーしていると言えます。

また、中規模以上の企業という想定でお話すると、現在の日本ではきちんとロビイングをしようとしている企業もあるものの、そこまで考えていない会社が多数派ではないでしょうか。また、自社ではロビイングは行わずに、所属している団体を通じてロビイングをしようとしているケースの方が多い気がします。つまり、積極的にロビイングを行うというより、受動的な企業の方が多いと感じています。

著名な団体で例を挙げると、冠たる大企業が名を連ねる経団連が政策提言を行っており、加盟企業は経団連を通じて政府への要望活動などをしています。また、そこまでの大組織でなくとも、日本には業種ごとに分かれるなどした無数の団体があり、そうした業界団体を通じてロビイングすることを基本方針に置く企業が多いとの印象です。実際、経営者と話をすると「団体を通じてやればいいのですよね」という人は結構います。

しかし、団体を通じても政策提言やロビイングはできますが、加盟している1社だけのために、その団体が何もかも代わりにやってくれるわけではありません。所属している業界団体の中で、制度改正を必要としているテーマについて課題を提起し、他の加盟企業を説得して巻き込み、それで初めて団体としての活動になるわけです。このように、団体を通じてのロビイングは、団体の活動への積極的コミットメントと、明確な目的を持った行動が重要になります。

つまり、団体に所属しているからと言って、団体任せにしていては、提言したい政策のロビイングは、完璧にはできないということです。団体に所属していても、完全にできている企業は、多くはありません。政策提言やロビイングは、新しいルールを作ったり、今あるルールを変更したりする必要性を感じ、実現したいと考えている個々の企業が積極的に動かない限り、できないものなのです。

詰まるところ、政策提言やロビイングは、実現したい企業や人々が自ら努力して、時間や費用を掛けることが必要だということなのです。

 

別所直哉プロフィール

慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、持田製薬株式会社に入社。労務、法務・知財、事業開発を担当。1999年にヤフー株式会社入社。法務部長、法務本部長を経て2018年まで執行役員を務め、法務・知財、広報、政策企画、公共サービス、リスクマネジメント部門を管掌。2019年10月より京都情報大学院大学教授。20年4月より紀尾井町戦略研究所株式会社代表取締役。
検索エンジンのための著作権法改正、インターネット利用のための公職選挙法改正、海外コンテンツへの課税のための消費税法改正、債権法改正など数多くの法改正に企業の立場から関わる。

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